911の恋迷路

 
 「そうだったんですけど」



 考えて、慎は言葉を繋ぐ。
 
 

 「急に仕事しなくちゃいけなくて」

 「面会相手が予定変更してきたのか?」

 「いえ、そういうわけでは」

 
 マズい。言い淀(ヨド)む。

 

 社長が鋭く目を光らせてキッパリと言った。

 「困った事、あったら相談しろよ。あと、変更あったら直ぐ報告な」

 「分かってます」

 
 慎がスマホで時間を確認する仕草(シグサ)をすると、社長はようやく開放してくれた。


 (やれやれ)


 エレベータに乗ってから、慎は溜め息をつく。

 社長の厄介な頼みを承諾してしまうとは。


 (俺としたことが)

 慎は気合を入れ直す。

 (仕事モード、仕事、しごと)


 脳内に仕事モード命令を出す。でもハンパな集中しかできない気がする。

 (なんか調子が狂うな)

 ネクタイを締め直した。

 慎が肩を上下してみたところでエレベータの扉が開く。


 (花井さんに会ったせいかな?)
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