911の恋迷路

 「おりたら電話して」

 (隼人の返信、はやっ)

 隼人のメールは高速で届く。

 

 受信箱にまだ開いていない隼人のメールが一件。

 果歩は気づいてメールを開く。

 「今夜、時間ある?」


 そのメールを閉じると、目に飛び込んでくる件名のメールがある。「りょうくん」の数件のメール。

 

 「元気ですか?」

 (元気なんかじゃない)


 恋人がいなくなって、果歩が心配しないわけはなかった。

 (心配してるよ……)



 陵と過ごした日々は鮮やかによみがえってくる。



 春。

 
 電車の窓からは、薄いピンクの桜が次から次へと見えた。

 お台場海浜公園に向かう電車の中。

 あたたかな春の陽射しのなか、海が光を反射してまぶしくかった。

 

 海からの風が強くて、思わず陵のパーカーにしがみつく。

 あの時の優しいお日さまの匂い。陵の、安心できる匂い。


 
 今こうして思い出すと、果歩の鼻の奥が疼(ウズ)く。











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