911の恋迷路
夏。
2人で花火をした。
線香花火を長くもたせる競争をした。
手をかざして、小さな線香花火の火を守る。
少しずつ膨らんで、落ちそうに垂れてくる火種(ヒダネ)。
突然、陵が果歩の肩をこずいて、ズルい勝ち方をした。
あの時、ひどいって叩いたら、目を細めて陵は笑ったね。
薄暗い灯りの中に浮かぶ陵の笑顔。
(りょうくん)
(あたしは、忘れてないよ)
(たまに陵くんムカつく事してたけど)
意地悪な陵を思い出して感傷を落ち着かせる。
「いじわる?」
思わず、果歩はつぶやいてしまった。
果歩の脳裏に慎が浮かんだ。
(イヤイヤ)
別人だから。
(弟だから似てるんだって)
電車のアナウンスが池袋駅到着を告げている。
(危ない、あぶない)
ボンヤリしていると降りそこねる。扉の前に移動した。
すると、ぐでんぐでんの酔っ払いが電車の扉近くに座り込んでいた。
「姉ちゃん」
果歩が、無視して降りようとしたら
「泣いとるんか?」
浅黒い顔が果歩を見上げた。汚れた顔で、目は虚ろで死んでいる。
吐きそうになって、電車を降りた。駅のトイレはまた混んでいる。鏡の前に立って、メイクを直す。
「電車おりたよ」
「ケンタにいる」
隼人の返信はまた早かった。