911の恋迷路

 
 池袋駅東口を出て見上げる月が果歩は好きだ。

 足繁く行き交う人たちとは別に、超然と月は空に留まっている。

 仕事帰りにこの月を見るとホッとする。帰るべき所に帰ってきた安心感。


 (急がなきゃ)

 
 隼人はセッカチ。

 

 東急ハンズに向かう道、人の流れをかいくぐり、果歩は隼人が待つケンタに入った。

 二階にあがると

 「おう」

 隼人が太い右手を上げた。


 「今日、休みだろ?はよ、メール返せや」
 
 開口一番の隼人、ブーイング。

 

 「あのね、休日だって忙しいの」

 「病院だろ?」


 (そうですけど)

 

 「今日は病院だけじゃなかったんだよ」

 「じゃ、買物か」

 (買物は買うものあったらいつもしてるよ!)

 あたしだって(!?)いつもと違う休日があるんだから。

 
 
 「なんかあったん?」

 ポテトをかじりながら隼人が訊いてきた。

 
 「陵くんの弟と会ってた」
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