911の恋迷路
「家に携帯は置いて行ったわけだ」
そう。
思い出した。
「たしか、あの頃って、海外行くときに携帯を旅行会社に借りて行ってた」
果歩は10年前に、専門学校の仲間と卒業旅行で香港に行った。
そのとき果歩は持たなかったが、友達は借りていたように覚えている。
「あ、だからいつも使っている携帯を持っていないなら」
果歩は、行方不明になった陵にメールを送った。
いなくなってから、毎日のように送り続けた。
メールは届いても……。
それを陵は見ていない。
陵の携帯に届いても、陵自身には届かなかった……。
陵の携帯は弟の慎の手に渡っていた。
て、ことは、と果歩は急に恥ずかしくなる。
(あの中には、あたしの陵くんへのメールがいっぱい入っているんだ)
顔が熱くなってくる。果歩はテーブルに突っ伏す。
(弟にあたしのメール、やっぱ見られたよね?)
なんて書いたかは、はっきり覚えていないけど、
すっかり取り乱したメールもあったと思う。
「隙(スキ)あり!」
隼人が絶妙なタイミングで、わきを叩く。
その手を払いのけて果歩は後悔した。
「弟が携帯を見せてくれたとき、あたしのメールを消せばよかった」
落ち込む果歩の頭を隼人がなでなでする。
「電源、今も入るんだ」
「まだ使えるよ。今日もその携帯からメールがきたし」
ふうん。
隼人は再度、首をかしげる。
「料金はどうなっとるんやろ?」
頬杖をついて隼人は、
「ま、別にどうでもええけど」と言った。