911の恋迷路
亜美は接客が好きだ。
この会社に来る前キャバクラに勤めていたとき、様々な人と知り合えて楽しかった。
確かにキャバ嬢を見下げるお客さんがいたり、品定めを露骨(ロコツ)にする男もいた。
でも亜美の性に合っていた。指名でポイントや売上は増えてきていたし。
(またキャバ嬢に戻ろうかな)
社員になったら給料は増える。
うれしいけれど、亜美はそれより沼田慎に会える時間が減るのが悲しかった。
「おはようございます」
出社したら、正面のバーコード頭にあいさつをする。入口から見て正面の奥に社長席がある。
社長は見事なバーコード頭を回して亜美にあいさつを返す。
「おはよう」
(何時も社長って一番なんだよね)
キャバクラで遊んだりしているのに、いつ家に帰っているんだろう。
(まさかここに住んでいる?なんてね)
社長と亜美以外は誰も来ていない。亜美は隣の席のテーブルに目をやった。
となりは沼田慎の席だ。
ノートブックの横に、亜美のピンクのマグカップが置かれている。
(え?あたしのコップ)
カップの底に、くっきりと黒いコーヒーらしき輪が残っている。
(沼田さん、あたしのマイカップ使ったの!?)