911の恋迷路
亜美が給湯室から戻ると沢森が、にやついている。
「亜美ちゃん、オレが間違えたら猛烈(モウレツ)に怒ったよね?」
「沢森さんだからです」
「キツいな」
フフンと鼻をほじりながら沢森は席に着く。
(鼻ほじるし汚いんだもん)
沢森は社長とキャバクラに以前来たときも、鼻をほじっていた。
キャバクラ嬢のくせに、という態度がみえみえな所も亜美には嫌だった。
それに比べて、沼田は淡白過ぎる。必要なことしか、しゃべらない。
(あたしのこと、女として見てないみたいだけどさ)
たまに亜美のことをじっと見ているときがあっても、女としての興味はないように思えた。
「沼田、浜崎さん、ちょっと」
今はオフィスには社長、沼田、沢森、浜崎の四人だ。
社員の沢森が呼ばれなかったのが、亜美には不思議だった。
「いよいよか?」
携帯で新聞を読みながら、今度は沢森が耳をほじっている。
亜美は沼田と並んで社長のデスクの前に立った。
「沼田、外回りの仕事のときは浜崎さんと行って、仕事を教えてやってくれ」
亜美はあわててしまう。
先日、社長に「辞めたい」と相談したからだ。