911の恋迷路
 
 「やってみたいと思うものは選(ヨ)り分けておいて」

 「優しいね、沼田くんは」

 沢森さんが視線を送ってくる。何か言いたそうだ。


 トュルルル…。

 ちょうどよい時に電話が鳴った。

 「沢森さん電話です」

 亜美の言葉にギロッとにらんで沢森が受話器を取る。お前が言うな、といった様子。

 
 一方で沼田は資料を亜美に渡して、颯爽(サッソウ)と出て行った。

 

 「あ~めんどくさ」

 電話を切って、沢森があくびする。

 「電話、苦手なんだから励め」

 社長の激励(ゲキレイ)に沢森は不満そうだ。


 亜美は預けられた資料の内容を見ながら、まだ沼田のことが気になっていた。だが渡された資料の内容を読むうちに、亜美は暗い気持ちになってきた。


 (どれもこれも)

 (重くて、難しい)

 ガンで余命3ヶ月の男性。
 気難しいと家族に嫌われている婆(ばあ)さん。

 等々(などなど)。


 (……う……ん)

 自分にできる仕事がこの中にあるんだろうか?

 沼田は亜美を高く評価してくれているってこと?

 

 (そうならうれしいけど)

 (逆に辞めようとしているあたしを甘えさせないためかな)


 ふうう。

 溜め息と共に涙が出た。
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