911の恋迷路
「難しい案件は、『沼田行き』だからな」
いつの間にか、社長がコーヒー片手に亜美の後ろに立っている。
「通称『地獄行き』」
沢森が頬杖をついて、また鼻をいじりながら、つぶやいた。
(地獄行き?)
社長が吹き出す。
「お前が担当すれば『天国行き』か?」
「案件によりますけどね」
沢森の口角が上がった。
「オレは難しいと思ったら、断りますからね」
(どうしよう)
亜美は途方に暮れる。
「ま、コーヒーでも飲んでひと休み、ひとやすみ」
社長は何だかうれしそうに、亜美のマイカップにコーヒーを入れてくれた。