911の恋迷路

 「難しい案件は、『沼田行き』だからな」



 いつの間にか、社長がコーヒー片手に亜美の後ろに立っている。


 「通称『地獄行き』」

 沢森が頬杖をついて、また鼻をいじりながら、つぶやいた。

 (地獄行き?)


 社長が吹き出す。

 「お前が担当すれば『天国行き』か?」


 「案件によりますけどね」

 沢森の口角が上がった。

 「オレは難しいと思ったら、断りますからね」



 (どうしよう)

 亜美は途方に暮れる。

 「ま、コーヒーでも飲んでひと休み、ひとやすみ」


 社長は何だかうれしそうに、亜美のマイカップにコーヒーを入れてくれた。
< 55 / 232 >

この作品をシェア

pagetop