911の恋迷路

 「俺、分かってんだ」

 隼人が果歩の髪を撫でる。

 「果歩にとって、俺は二番目だ」


 (隼人)

 かける言葉がない。

 取り繕う言葉しか出ない。

 果歩は隼人の声に耳を傾ける。



 「俺、何時も二番目なんだよな。でも……そういう俺が二番目で泣く奴、作ってんだ」

 規則正しく果歩の髪を撫でる指先。ゴツイが手慣れてはいる。

「俺と付き合う女は二番目なんだよ。俺は、果歩よりもそいつを大事に出来ねえんだ」

 果歩の胸が熱くなった。

 今日、幾度となく自分の心が揺れている。



 9・11のテロの画像を病院で見てしまってから。

 陵の弟・慎が現れてから。

 でもそれはただ、起こりうる日々の出来事に過ぎない。日常にある、きっかけ。



 (あたしは逃げてスルーしてきたんだ)

 果歩は自分の気持ちに向き合わなかった。


 だから
 解消できずにいた陵への気持ちのせいで、周りの人を傷つけていたんだ。
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