911の恋迷路

 隼人の指が静止する。

 髪に絡まった指の温もりが果歩の皮膚に伝わってくる。

 「果歩キスしていいか?」
 恋人ならば、抱きあってキスをする。当然の展開。

 でも友達以上恋人未満の微妙な関係のふたりだ。

 「俺、男だからこうしてるとさ……」

 歯止め利かなくなる、

 
 隼人の苦しそうな吐息が果歩の鎖骨にかかる。

 
 果歩は人として隼人が好きだ。

 キス……、キスをしてもいい、隼人が望むならば。

 
 (キスくらい)

 果歩の頭に鮮烈によぎった。  
 それは利己的で今、この時だけの感情。

 (ズルいね)

 だけど、ねぇ隼人許して。先のないキスかも……。

 キスかもしれないんだ。

 それでもいい?

 (あたしは今届くところにある人を失いたくないだけ)

 安心できる愛がほしい。
 思い出に溺れてしまう、弱い脆(モロ)い、あたし。

 ひとつの歌に、すぐ涙目になる、さびしいあたし。

 

 「……駄目か」

 抱きしめる腕を隼人が緩めた。2人の間に少し隙間があく。

 果歩の瞳は隼人の瞳を見ていた。
 丸っこい二重の瞳が心配そうに果歩を見つめている。ごつい指が果歩の頬を撫でる。ゆっくりと、愛おしそうに。
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