911の恋迷路

 読み直して、亜美が沼田を見る。

 沼田は天井を仰いでいた。

 無言。


 眉間にしわを寄せている。

 

 「あの」

 恐る恐る沼田に声をかける。

 


 沢森が耳掻きをしながら、ニヤニヤ笑った。

 「オレも読んでいい?」

 沢森が手を伸ばしてきた。亜美は仕方なく案件の資料を渡した。

 耳掻きを続けながら、沢森は資料に目を通したとたんに

 「ゴミだな」

 素っ気なくシュレッダー行きの箱に投げ入れた。


 

 (感じわる~い)

 頬を膨(ふく)らませる。

 

 そして沼田に助けを求めるつもりで視線を送った。

 沼田は天井を見上げたまま疲れたように目を閉じている。





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