911の恋迷路

 それは3月11日の津波の被害者の案件だった。

 

 第三希望案件は、

 
 「東北の津波の被害者58才。長女を津波で亡くし、東京在住の長男の元で暮らすも心身喪失状態、話相手を希望」

 依頼主は父親の世話に疲れた長男だった。

 心が壊れた状態で通院中だとある。

 

「あの地震で被災したなんて、かわいそうだから優先的に仕事うけようよ」

 亜美の言葉は、沼田を激怒させた。

 
 沼田は険しい顔で、亜美のほうを見ようともしない。

 


 「あたしとしては、第二案件とそう変わらないと思うんですね」

 「……」

 「悲惨なケースだと思うんで、ちょっと難しいかなとは」


 
 言いつのる亜美に沼田の強い言葉が返ってきた。

 「難しくはない」

 
 亜美は沼田の伝えたい事が分からない。

 「不可能なんだ」

 「え?」

 

 「大事な人間の代わりは居ない」
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