911の恋迷路
台風
9月21日。
隼人と躰を重ねてから10日たった。その間、果歩の身体の変化は激しい。
鼻のそばの吹き出物が消えた。化粧のりがいい。胸の辺りから甘酸っぱいものが絶えず湧き出ている感じ。
(隼人に抱かれてから、愛されてから身体が火照るのよね)
少しずつ、男の腕に抱かれて愛されることを繰り返すことで、満たされていく果歩。
でも、心は?
「果歩、なんか変わったよね」
同僚に言われながら、果歩は受付に立つ。
池袋でクリニックの受付として、毎日同じナース姿でも、内の変化はわかるらしい。
「男できたの?」
(この言い方はイヤなんだけどね)
実は9月11日に会ってから、慎から連絡があった。
「また連絡する」という言葉を信じていなかったから、メールがあったときは素直にうれしかった。
果歩は慎とメールのやり取りを続けていた。
兄を小学生のときに失ったという慎の事を思うと胸が痛む。
慎の兄は果歩にとっても大事な存在、恋人だった。東京に出てきて初めての頼れる男性。
慎と果歩は別々のところで大事な人と時間を過ごし、その人を同時に失った。
同志のような想いが生まれてきている。
(わたしたちは、同じ人に育まれてきた)
隼人が恋人になったからには、陵の事を考えるのは終わりにしなければ。
そう思えば思うほど、慎と話したくなる。
慎が知っている陵の姿を聞きたくなる。