911の恋迷路
台風

 9月21日。

 
 隼人と躰を重ねてから10日たった。その間、果歩の身体の変化は激しい。

 鼻のそばの吹き出物が消えた。化粧のりがいい。胸の辺りから甘酸っぱいものが絶えず湧き出ている感じ。


 (隼人に抱かれてから、愛されてから身体が火照るのよね)

 少しずつ、男の腕に抱かれて愛されることを繰り返すことで、満たされていく果歩。

 

 でも、心は?



 「果歩、なんか変わったよね」

 同僚に言われながら、果歩は受付に立つ。

 

 池袋でクリニックの受付として、毎日同じナース姿でも、内の変化はわかるらしい。

 
 「男できたの?」

 
 (この言い方はイヤなんだけどね)

 
 実は9月11日に会ってから、慎から連絡があった。

 「また連絡する」という言葉を信じていなかったから、メールがあったときは素直にうれしかった。

 果歩は慎とメールのやり取りを続けていた。

 兄を小学生のときに失ったという慎の事を思うと胸が痛む。

 慎の兄は果歩にとっても大事な存在、恋人だった。東京に出てきて初めての頼れる男性。

 慎と果歩は別々のところで大事な人と時間を過ごし、その人を同時に失った。

 


 同志のような想いが生まれてきている。

 (わたしたちは、同じ人に育まれてきた)

 

 隼人が恋人になったからには、陵の事を考えるのは終わりにしなければ。

 そう思えば思うほど、慎と話したくなる。

 慎が知っている陵の姿を聞きたくなる。
< 75 / 232 >

この作品をシェア

pagetop