911の恋迷路

 隼人への罪悪感と慎への好奇心のはざ間で、いっそう心が躍る。

 一種の躁(ソウ)状態が続いていた。



ーーーそして21日今日。

 
 この日は朝から不穏な空気に包まれていた。せわしない、不安な気配が街をただよっている。

 台風の到来。予報のせいでクリニックの中も落ち着かない。

 果歩の勤めているクリニックは池袋の東口近くにあり、果歩の家からは歩いて行ける距離だ。

 家が近いと便利だし天候不順でもある程度落ち着いていられるものだ。


 でも果歩もそわそわしていた。

 

 出勤前に慎からメールがあったのだ。

「今日、時間ありませんか?池袋駅の近くまで行くので、話せるとうれしいです」

 話せるとうれしい、
 そんな風に書かれると。

 (断れなくなっちゃう)

 

 台風が来るというのに外回りだろうか。外回りの営業などの仕事は本当に大変だと思う。

 「サンシャイン前のジョイフルでどうですか?」

 (あ、GPSがあるから分かるのかな)

 慎からのメールで昼過ぎに池袋の駅前で人と会うから、そのあとで、ということになった。

 今日は台風が来るから気圧の変動が激しい。果歩は天候の変化に敏感だ。


(そのせいよね?)

果歩は胸騒ぎと高揚感を抑えながら受付に立っていた。
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