911の恋迷路

 大丈夫のメールよりも、
 果歩には「待っている」メールのほうがうれしかった。

 
 今、必要としてくれる人がいる。

 それは自分にはどうしようも出来ない台風の暴風に向かうエネルギーとなる。


 果歩は暴風と突風に足元をさらわれそうになりつつ進んだ。


 
 ジョイフルは高架下に近いところにある。暴風がコンクリートに当たって渦巻いて襲ってくる。

 「だいじょうぶ?」

 果歩の手をつかんだ手があった。

 前が見えなくて、一瞬つかんでくれた手が誰の手か分からない。


 
 ジョイフルの店の前で、慎が果歩の手をつかんだと知って、ほっとした安堵(アンド)感が体中に広がる。

 (この人は店の外で待ってくれてたんだ)


 雨に濡れた慎のシャツは透けて中のランニングが丸見えだ。

 つかんでくれた慎の手もひどく冷えていた。

 

 「中に入ろう」

 手をつないでジョイフルに入る。

 店内の冷房のひんやりとした空気に包まれたら、急に寒気を覚えた。

 店の中は同じように嵐に遭遇した人でいっぱいだ。

 

 慎が前もってとっておいてくれた席に着く。途端に緊張が解けて、果歩はぐったりと頭をテーブルにもたれかけた。
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