911の恋迷路

 「薬とか飲まなくていい?」
 
 差し出された水。ためらって、断る。

 「この薬、なめたら効くから」

 薬を舐めながら、バックの中のタオル地のハンカチで顔や首筋を拭く。

 

 慎は手を伸ばして果歩の額に張り付いた髪を分ける。

 (隼人と全然違う指先)

 
 知らずしらずのうちに隼人と比べている。そして陵に似たところを探している。

 果歩は、かっと頬が熱くなる。

 「しばらく出られないかも」


 
 果歩の赤い顔を見ながら、慎は微笑んだ。


 「ゆっくり話せるよ」

 それは初めて会ったとき、タクシーの中でも果歩にかけた言葉。

 
 ドリンクバーの注文を取って、店員がさがってから慎は話し始めた。

 「実はこの間、話せなかったことなんだけど」

 「---はい?」

 「えっと、そうだな」

 慎が意地悪っぽく笑う。口の端っこが凹んだ笑顔に、果歩も笑みがこぼれる。

 「なんですか?」

 「ーーー花井さん、付き合っている人いる?」

 

 果歩はまた顔が赤くなる。
 
 と、突然すぎる。

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