911の恋迷路

 
 「……います」

 ためらった自分の心に果歩は気づく。

 慎に隼人のことを彼氏として話したくない気持ちがある。

 
 
 (この人が気になるから)

 確認してしまって、また頬が熱くなる。

 

 「突然こんなこと訊いちゃってごめんなさい、でも」

 再びためらう慎をまともに見ることが出来ない。

 

 果歩は洗面に行くと言って席を立った。

 
 トイレは混んでいて、待っているうちに果歩の気持ちは少しずつ落ち着いてくる。


 

 鏡で姿をチェックして整えてから席にもどると慎は窓の外を考えるように眺めていた。

 嵐の街を哀しそうな目で見つめている。

 それをじゃましないように、果歩は静かに席についた。

 その姿を確かめて慎は陵に似たまなざしを果歩に向けた。


 「兄の話なんだ」

 思いがけない話、いや予想できる話だ。

 そのためにジョイフルに来たのだから。


 
 果歩は姿勢を正した。


 「兄は行方不明ということだけど、実は生きているんだ」
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