911の恋迷路

 「生きてる?」

 つぶやきが漏れた。





 いきてる……。

 (死んでるかもって思ってた、心のどこかで)

 
 本当は陵を死んだことにして、哀しみにしがみつきたかった。

 死んだことにしないと果歩は救われない。前に進めない。

 

 果歩は陵にとって連絡するに値しない、ちっぽけな存在?


 (ひどい、ひどい、ひどい)

 
 「どうして」


 最初は待っていた。それが少しずつ変わって諦めに変わった。

 怒りは陵だけでなく慎に向けられる。


 「どうして、陵くんは連絡してくれなかったの?」

  
 慎の瞳だけでなく、さらっとした髪の感じ、口元、青いシャツから透けている腕の形、

 全部、ぜんぶ陵に見えてくる。

 陵の生存を知らなかった悔しさをどこにぶつけてよいのか、果歩は途方にくれた。


 「知らせることができない事情があるんです」

 「今は教えてもらえるの?」

 突っかかるような言い方しかできない。

 大人の余裕なんてない。嵐のせい?

 
 (ちがう)


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