911の恋迷路
激怒
果歩は凍りつく。
燃え上がる血流が一気に冷めていく。
頭の中でココンと音がして、気がつくとジョイの窓に頭をもたれかけていた。
「10年も時間があったよ?」
かすれた声。冷房でひんやりと冷たいガラスの感覚が、頬に心地よい。
熱くなってバカだ、恥ずかしい、大人にならないと、そんな気配りはもう出来なかった。
「10年も時間をいただいた上に、時間をくださいなんて」
慎が頭をテーブルに深く突き刺すかのように押し付けた。
「どうか」
まだ濡れたシャツ、髪の毛も乾いていない、そんな姿で。
「……もう少し時間をください」
「やめなよ」
(沼田さん、格好悪いよ)
こんな嵐のファミレスで人もたくさんいる中で、頭を下げられる身になってほしい。
「これ、僕が働いている会社の名刺です」
名刺には聞いたこともない会社の名前。
「---何してる会社?」
「なんといえば好いのか……」
頭を上げて慎は顎を撫でている。これが彼のクセらしく、はっと気づいて、また慎は頭を下げた。
「便利屋です」
(便利屋?)
……?
(陵くんは大手の証券会社だったな)
怒りが靄にかかったように曖昧にされていく。
慎は不思議だ。
謎が多い。