911の恋迷路
「電車が止まってしまって、そっちに行くのに時間がかかる。大丈夫か?」
(メールの返事、まだだった)
彼女失格だ。果歩はすぐにメールを返す。
「はやと、大丈夫だよ。無理しないで」
そんな果歩の姿を見て慎が呟いた。
「ケイタイってデータバンクですよね」
「は?」
(また唐突に……)
「携帯がないと、その人のことを知ることが出来ないよなって」
(そりゃそうでしょう)
何が言いたいの?と目で問う。
「花井さんは、兄がまだ好きだからその着信音なんですか?」
逆に問われてしまった……。
「兄も同じメール着信音でしたから」
果歩は一緒に同じ着信音にしたことを思い出す。
懐かしくて、10年の時間を一気に巻き戻したことで、また怒りに火がついた。
「どうしても言わないなら、陵くんのこと調べるよ」
慎の名刺を見ながら思いついたことがあった。
「調査を沼田さんの会社に依頼してもいい?」
慎の表情が一瞬かたくなる。
(ほら、言いなさいよ)
「……」