911の恋迷路
プップップップッ……。
呼び出し音を緊張して聞くことなんて、この携帯からかける通話ではない。
「はい、沼田です」
(やっぱり、陵くんの実家だ)
ひとまずほっとする。
ここからが大事なのだ。一呼吸おいてから、果歩はゆっくりと噛みしめるように言った。
「沼田陵さんのお宅ですか?」
相手から、警戒するような戸惑うような空気が感じられる。
(警戒?)
「……そうですけど」
「ご在宅ですか」
「今は……出てますが……」
(やっぱり)
やはり陵くんは生きている。
「陵さんはそこに住んでいるんですね?」
語気が強くなってしまった。冷静に話そう。たくさん聞きたいことがあるのだから。
相手は明らかに警戒している声で答えた。
「あの、どちらさまですか?」
「あ」
肝心な自分の身元を言っていなかった。
果歩は隼人の「落ち着いて」ポーズを見て、勇気をもらう。
(ひるむな、あたし)
「ーーー花井果歩と申します。以前、陵さんと親しくさせていただいていました」