911の恋迷路

 相手はうろたえて

 「それは……お世話になりました」
と礼を述べる。


 

 「今日はどのようなご用件ですか?……兄は具合が悪いものですから」

 「陵くん、あ、いえ」

 果歩はあわてていた。いつも呼んでいた呼び方が出てしまう。

 「陵さんは具合が悪いんですか?」

 

 「……」






 考えるような沈黙。



 重い沈黙のあと、相手は口を開いた。

 「失礼ですが、この番号をどこから知られたんですか」


 「どこから?」

 思わず繰り返してしまう。

 「大丈夫か?」とせわしなく合図を送ってくる隼人。

 (はやと、待って)

 

 
 今にも携帯を取り上げそうに果歩のそばで聞き耳を立てる隼人を果歩は押しとどめた。

 「陵くん、いえ、陵さんの弟さんです」



 再びの沈黙。



< 93 / 232 >

この作品をシェア

pagetop