911の恋迷路

 息を整えるかのような沈黙。稔は機械的な感情のうかがえない声で突然、話し出す。

 「またこちらから連絡させていただきますので……」

 そして稔の静かな声とともに、電話が切れた。

 

 「ちょ」

 (ちょっと待って)

 

 ブツッという無愛想な音とともに一方的に電話が切れる。


 

 「どうした?」

 隼人が果歩の携帯を奪い取るも、果歩は座り込んだまま。

 何がなんだか……。

 (もうわからない!!!)

 

 ふと、テーブルにおいた沼田慎の名刺が目に入る。

 (ここまで来たら、『毒食わば皿まで』よ)

ーーー毒を食わされて黙ってはいられない。

 


 果歩は静かに名刺を眺めた。

 「ここに明日、電話してみる」

 「は?実家だったんだろ、なにも分からなかったって……?」

 「隼人の言うとおりだった…」

 

 (あたしはバカだ。だまされたんだ)

 「沼田慎は陵くんの弟じゃないなんて」
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