瑠璃の羊
 
守衛のおじさんに敬礼されながら外に出ると、雨が降っていた。

わたしの鼻に感謝しながら、傘をさして道を進む。
 

冷やされたアスファルトが、湯気を立てながら雨の匂いを強めていた。

多少跳ねる水は気にしない。

水たまりをパンプスで避けて、目的地へと急ぐ。

 
国立美術館の前には、あの日よりも大きな看板が立っていた。

その看板自体がひとつの作品みたいで、立柱の上に星がいくつか回っている。
 

すっかり顔なじみになってしまったお姉さんのいる窓口で入場券を買い、傘を入り口に預けて中へと入る。

ひんやりとした空気が、湿ったぬるさに晒されていた肌を冷やしていった。

 
今日も二階へ。

そう思って階段へ向かう途中、なつかしい香りに気づく。
 

ミントの香り、そしてわずかにテレピン油の匂い。
 
< 184 / 187 >

この作品をシェア

pagetop