瑠璃の羊
「おはようございます」
時間より遅れて食堂に入ると、キッカは厨房内にいた。
「おはよう。ごめんね、まだちょっとできてないんだ」
いつもならこの時間には完璧に用意されているご飯。
「大丈夫です。忙しかったら、自分でやりますよ」
「ううん。単なる寝坊だから」
「なんだか、意外です」
「僕も人間だからね」
はにかんで見せたキッカに、ゆっくりでいいですと伝えると「ありがとう」と返ってくる。
流れる水の音を聞きながら、わたしは食堂の端にある棚から美術雑誌を抜き取り席についた。
食堂内に音楽は流れていない。
これは寮長の趣味で、他の寮はどうだかわからない。
食事や基本的な設備は変わらないはずだけれど、ところどころ違うらしい。
たとえばこの寮は緑が多いそうだ。
クラスメイトの会話が耳に入った程度の知識だけれど。
天気は変えないくせに、そういうところは揃えない。
どうしてかと疑問が頭をもたげても、解答は得られない。