瑠璃の羊
正直、もどかしさを覚えていた。
あの絵が好き、そのひとことすら口にできなくて。
食堂以外では顔もあわせない。
寮内は男子と女子で階層が違う。
彼は庭にいることも、書庫にくることもなかった。
ただ時折、食堂にテレピン油の匂いを引きつれてきていた。
彼と二度目の昼食後。
わたしはもやもやとしたものを抱えつつ庭に出ていた。
キッカが手入れしているわずかな草花。
疑似太陽光といえども、ひまわりは大輪を咲かせている。
その横にあるベンチに腰をおろし、何をするわけでもなくグラウンドを眺める。
その先にある、今はひとけのない箱。
どうなのだろう。ひとつため息をこぼす。
わたしはあの名が気になって、あの絵が好きで、これを描いたのはどんなひとなのかとときおり考えにふけっていた。
そして今、その人物は食事のときだけとはいえ、目の前にいる。
表情を確認することも声を聞くこともできる。
恋焦がれた名の持ち主が、そこにいる。