あ
第一章
闇に支配された路地に、地面を蹴る足音が響く。
荒々しい息が、白く浮かび上がっては暗闇に溶けて消えていく。
周囲に人影はない。
古びた街灯だけが、怪しく辺りを照らしていた。
後方からは数人の足音。
仲間を呼んだのだろうか。先程より人数が増えている気がする。
「(冗談じゃないって…の!)」
半ば自棄になりながら、わざと入り組んだ路地に入りこみ、必死に足を動かす。
――息が苦しい。
もう、足が動かない。
でも、止めるわけにはいかない。
逃げなくては。
恐らく、
捕まってしまったら、私は――…。