千寿桜―宗久シリーズ2―
「私は、そんな甘っちょろい戯れ事を言える保明様が好きですよ」





「……………」










まただ。





こいつは、いつもこうだ。


故意に俺を怒らせる様な事を言いつつ、最後にはこうして笑うのだ。




俺の全てを受容している…そう常に訴えてくる様な深い瞳で見守られている感覚。







意地の悪い言葉はからかい……なのだろうな。


笑う源三郎を見ると、やられたと軽い敗北感が沸き上がるのも事実。









溜息だ…………。










「源三郎、俺を怒らせたいのか安堵させたいのか、どちらなのだ」



「ふふふ……」





含み笑いを漏らす源三郎。








「両方です」

「お前の話はあべこべだ」

「そうでもありません。私の真の心は、昔から変わりません」







……この後に続く源三郎の言葉、俺には予想できる。









「心は、死ぬまで保明様と共に有り。命を預ける主は、あなただけと決めておりますれば」



「…耳にタコができておるわ」






今まで、何度聞かされたろう。



源三郎の忠義の心。

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