千寿桜―宗久シリーズ2―
にやにやする源三郎の背に軽く足蹴をくらわせ、俺は再び身体を転がした。



ひやりとする畳に頬を押し付け、平たい視線を辿り、雨に濡れる庭を見つめる。



ぽたぽたと、雫が葉に落ち弾ける音が心地良い。








来年もその次も、次も、こうして庭を眺める事ができればいい。




源三郎と語り、笑い合い、時間を持て余す程の平和がこのまま続けば。







今年の秋、元服を迎える武士の言葉では無いかもしれない。



女々しいと嘲笑を買うかもしれない。




だがそれが、俺の真であるのだから変え様は無い。











……千寿は、この様な俺を腰抜けと笑うだろうか。




あれも武士の娘だ。









千寿とは、未だ向き合って話をしてはいない。



相変わらず生意気な女だが、なぜかその態度には裏があるのではと思える。







裏、と言うよりも…理由…。





千寿はなぜ、自棄になるのか。


そう思えてならない。







「気丈に振る舞っておいでなのですよ」



源三郎は、そう言っていたが。






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