千寿桜―宗久シリーズ2―
「不安なのではありませんか?知らぬ土地に送られ、裏名目は人質の様なもの。それが女の利用価値、そう言われている様なものですよ」







源三郎の言う所は、理解できる。



俺の母も、そうして父上の元へと嫁いできたのだから。









幸せ、なのだろうか。








母上は、そう思う時はあるのだろうか。






聞いた事は無い。






いつでも母上は、静かに父上の背を見つめているだけだ。



逆らわず、ただそこに在る母上。




その瞳は物憂げで、どこか儚げで、そこに魂があるのかと思う程に。









母上は幸せですか………?







聞けない。






母上の唇から吐き出される言葉が、もしも俺が望む答えでは無かったとすれば………俺は、己の存在を疑うだろう。










ああ…………そうか。










千寿の瞳、奥底が深いと感じたのは、どこか母上の眼差しと似ていたせいなのかもしれない。




目前を通り越し、未だ見えぬ先を憂いる様な視線がだ。








何を思うのだろう。



千寿は、何を思っている?


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