千寿桜―宗久シリーズ2―
そして、なぜ俺はこんなにも千寿が気になり、仕方が無くなるのだろう。





同情か、好奇心か。




わからないが、千寿のあの態度に対し、俺も同じ様に返そうとは思えないのだ。






冷たくはできない。






その心の内を知りたいとさえ思う。







しかし、それを打ち明ければ源三郎を更に喜ばす事になるので言わないが。









身体を横たえたまま、茶をすする源三郎の背を見つめる。








ふと、その背の向こう、視界の隅を横切る朱色の着物の色が目に留まり、俺は身体を起こしかけた。





あの着物の色は……。






「おや?」




源三郎も気付いたらしい。


俺の視線の先を見つめている。






庭を横切る朱色の着物………千寿だ。



雨に包まれる静かな庭、その中を千寿は歩いていたのだ。






思わず、身を乗り出し姿を追う。





雨に濡れながら歩いて行く千寿……。



朱色の着物の色は、水分を含み、その鮮やかさを暗く染め変えている。




どこへ行くのか……。




何をしているのか……。







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