千寿桜―宗久シリーズ2―
「どうなさったのでしょう…お風邪を召されてしまいますよ」





ねぇ?と、悪戯を思い付いた子供の様な微笑を浮かべ、俺に同意を求める源三郎の視線に舌打ちを返す。




今の源三郎は、俺の反応を楽しもうとしているのがありありとわかるからだ。





「傘をさしてあげられてはいかがですか」

「……なぜ俺が」



口篭る。




そんな俺を見て、源三郎はやれやれと肩をすくめた。






「見て見ぬふりですか?」

「俺だけが悪者か?」

「私は悪者にされてもかまいません。ですが、我が君を巻き込むのは気が引けると申し上げたのですよ」

「その様な優しい言い方には聞こえなかったのだが?」

「お聞き間違いをされたのでは?」







こいつ………。








「お前が行けば良いではないか」

「私、雨が似合わない男なのですよ。相性が悪いのでしょうねぇ。保明様の様にもう若くもないもので、風邪をひいた暁には、ひと月…ふた月は床に伏せてしまうかも……恐ろしい…命に関わります」

「……俺の為に死ねる、そう聞いたが?」

「今は事情が……ねぇ?」

「…………」




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