千寿桜―宗久シリーズ2―
声掛けに、千寿の細い肩がびくりと震えるのが見えた。



「雨の中、何をしているのか」


「……………」








千寿は、無言であった。




傘を差し延べた俺を見上げぬまま、一時止めた手を再び動かし始める。






その手の先に視線を這わせた。










千寿が積み上げていたものは…………小石であった。






木の根元、湿った土の上、小さな平たい小石が山の様に積み上げられていた。








思わず、溜息が漏れた。





「何をしているのかと気になり来て見れば……何のまじないか」

「……まじないではありませぬ」


「ならば、何だと言うのだ」






問いにも、千寿は顔を上げないままだ。








庭に染み入る雨音、千寿が積み上げる小石の音だけが、こつんこつんと、俺の耳を刺激する。





取り憑かれているかの様に、黙々と小石を掴む千寿。




白い指先を、泥に染め……。



俺の存在等、気にも留めずに……。





差し延べた傘から突き出た俺の肩に、冷たい雨の雫が染み込んでいく。






沈黙が、染み込む……。


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