千寿桜―宗久シリーズ2―
俺をまっすぐに、まるで射抜く様に見つめてくる千寿。



濡れた着物、その裾、千寿の足元には、積み上げられた小石が見る影も無く崩されていた。






千寿が………?








「賽の河原をご存知ですか?」






細い、声。


絞り出す様な声。









傘が……雨音を響かせている……。










「賽の河原を、ご存知ですか」

「賽の河原……?」





何の話だ。






眉をひそめる俺の視界の先、千寿が雨に打たれている。



打たれながら静かに、淡々と語る薄紅色の唇に、冷たい笑みを乗せている。









「保明様、わたくしは己が幸福になろう等とは願ってはおりませぬ。幸福にして貰おうとも」


「………何…を」




何を言っている。






「ですから、わたくしには構わないで下さいませ」








千寿の白い頬に、雨の雫が滑らかな線を描きながら、伝い落ちていく。




その雫は、千寿の悲痛を含む潤んだ瞳と同調し……まるで………泣いているかの様に……。





千寿。

泣いているのか……?







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