千寿桜―宗久シリーズ2―
薄紅色に青みがかった唇が、言葉を紡ぐ。









幸福は望まない………。









なぜ望まぬ。



なぜ自棄になる。





まるで、全ての優しさを拒むかの様な……。









「……源三郎」

「はい」

「お前、賽の河原と言うのを知っているか?」



「賽の河原ですか?」




ふぅんとうなづき、源三郎は空に視線を泳がせた。










「あれですよ。冥土にあると言われる三途の川の河原」

「冥土?」



そうですよと、鞍を磨く手を再び動かしながら源三郎は笑う。





「死んだ子供が、父母の幸福を祈り、小石を積んで塔を作るのですよ。ですが何度積み上げても、鬼に壊されてしまうのです」




……死んだ…子供?







「ととさまの為にひと〜つ、かかさまの為にひと〜つ……親よりも先に死んだ子供は、そう願いながら小石を積むのです。親よりも先に逝くのは親不孝、その罪の為、子供は石を積み上げる。それを意地悪な鬼が壊すのですよ。悲しい話です」





「親不孝の償いの為……か」

「そうなのでしょうね」



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