千寿桜―宗久シリーズ2―
えぇ?と、源三郎は男前な顔を驚愕へと変えた。







「……何ですか……それでは姫は、桜の根元を賽の河原に見立て、小石を積んでいたと……そうなりますが」




そうなるのだろう。



源三郎の語る賽の河原から考えれば、そうなるのだろう。







磨いていた鞍から手を下ろし、源三郎は唸る。


唸りながら、右手に握る古布で鼻の下を擦っている。



端正な顔に、汚れが髭の様な黒い線となり伸びた。




いつもならば笑いからかう所だが、今はその様な心持ちでは無かった。










わからぬ。




千寿の行動が理解できぬ。









「千寿は、幸福は願わぬそうだ。幸福にしてもらおうとも思わぬと。自分には構うなと……そう俺に言った」



「構うな……ねぇ」




鼻の下に髭を描いた源三郎は、眉間にシワを寄せ首を傾げる。





「構うなは、気に留めての裏返し…」

「はぁ?」

「が、私の持論ですが、姫の場合はちと当てはまりませぬな」

「言われんでもわかるわ」



何を言っておるのだ、こいつは。





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