千寿桜―宗久シリーズ2―
気に留めて?

去る者は追わず主義なのでは無かったか?





溜息混じりに見つめる俺の視線の先で、源三郎は頭を掻いて唸っている。



「賽の河原……ちと尋常では無い理由な予感はしますな」



………だから、そう言っておるのに。



「ですが…見守るしかありません」


「見守る?」





顔を上げ、源三郎は笑う。





「それ程までに深い覚悟ならば、容易に揺るぎはしないでしょう。ですが、悲しみはいずれは軽くなってゆくものです。生きておれば……ね」


「生きておれば、か?」


「はい。生きて人と関わって行けば、消えずとも軽くはなります。時折思い出しはするでしょうが、向き合う強さが身に着いてくるのですよ。姫は恐らく、まだ向き合えないのでしょう。その様に見受けられます……私も、そうでしたからね」





そう言った源三郎は、少しだけ……少しだけだが、悲しそうに睫毛を伏せた。






俺は思い出す。





七年前、源三郎が末の弟を病で亡くした時の事を。








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