千寿桜―宗久シリーズ2―
俺は笑った。



たとえ源三郎のその言葉が本意では無かったのだとしても、幼い俺にはそこまで考慮する思考が存在していなかっただけなのだが。








「源三郎が死んだなら、俺は困る」

「なぜです?」

「遊ぶ相手がおらぬではないか!野駆けにも行けぬ、倹術も上達せん。何より淋しいではないか。俺が側にいるのに、お前は泣いてばかりでつまらぬのだ」

「保明様」

「なぜ笑わぬ?なぜそれ程までに泣く?源之助は、兄を悲しませる為に死んだのか?ならば源之助は、兄孝行では無いのだ。そうなるであろう」

「……保明様」

「お前は俺に、強くなれと言うではないか!武士ならば、己から強くなるべきであろう。嫌なのだ……お前が泣くと、俺も泣きたくなる………それが嫌なのだ!」




「……保明様!」






源三郎は泣いていた。


俺を胸に抱きしめて。





「保明様……源三郎が悪うございましたな」







源三郎の腕の中、幼い俺も、訳がわからず泣いたのを覚えている。



耳元で囁かれた、源三郎の言葉も……。









―私は、あなたの為に…この命を取り置きましょう…―

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