千寿桜―宗久シリーズ2―
それ以来、源三郎の涙は見てはいない。



それでも時折見せる遠い瞳は、未だ思う所があるのだと、そう……確認させる。








「賽の河原……あいつも、鬼に崩されているのだろうな…」



鞍を撫でながら、源三郎は空を見上げている。



源之助の姿を、空の彼方に追っているのだろうか。








……それでも良い。



今は、そう思える。








人は強くはない、完全ではない。


心は、脆い。



だからこそ悩み悲しみ、淋しさから人との繋がりを求めたりもするのだろう。






良いではないか、それも。


生きているのならば、良いではないか。





そこから何かを見つけ得られるのならば、悲痛も淋しさも意味有るものに違いない。









「源三郎……」

「はい」

「源之助は、賽の河原にはおらぬと思うぞ?」






空に向けていた瞳を俺に戻し、源三郎は瞬きをする。





「源之助は、賽の河原にはおらぬ」



「………保明様」








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