千寿桜―宗久シリーズ2―
頬に熱が込み上げるのを感じた。


慌て、休めていた鞍磨きに精を出す素振りを取り繕う。



何やら照れ臭い。





俺の心中を見透かしているのか、源三郎はにやにやと愛嬌のある笑みを浮かべている。





「これで姫と契りを結べば、晴れて男となれますな」

「はっ?何を言っておる!」

「男とは、女を知ってなんぼです」

「それはお前だけだ」



こいつの女好きは今に始まった事ではないが。





手に持つ古布を、源三郎の顔に目掛けて投げ付けた。




「いつか女に刺されても知らぬぞ」

「私、後腐れの無い間柄を常に考慮しております。刺される事はありません」

「言い切ったな」

「まぁ、万にひとつの出来事として案ずるならば、控え様とは思いますが」

「止めると言わぬ所がすごいぞ……」



これは死ぬまで治らんな。






考えて、笑う。



つられた源三郎も笑う。






この中に、いつか千寿の笑顔が加われば良いな。





焦らぬと決めた、おれの願い。










なぁ、千寿………。


少しずつ、歩み寄ろう。





今はそれだけで良い。

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