千寿桜―宗久シリーズ2―
来訪者である僕を、珍しがっているのだ。







草花は、好奇心が旺盛だ。


思わず、笑みがこぼれる。







春風が舞う庭。



僕は、池の前まで歩を進める。







「初めまして、仲良くしような」






礼儀を失してはならない。

彼等は、人以上に敏感だから。





挨拶を呟き、隣に立つ古いもみじの葉を撫でた。








歓迎の現れなのか、もみじはまだ青い葉を一枚、池の水面へと降り落としてくれた。






コツ―ン……。







添水を溜めた鹿脅しが、岩に打ち付けられ、空間に音を響かせる。





振動で揺れる水面。





ぼんやりと見つめる僕の視線の先では、落ちたもみじの葉が、小刻みな波に押されて流れる。










…………あれ?







押し流されるもみじの葉の隣、見た事の無い花びらが浮いている。






膝を折り、水面へと手を伸ばした僕は、それをすくい上げた。







濡れた手の平、その上に乗せられた花びらは桜の形。


桃の花色にも似た、濃い色合いの……。







「……千寿桜?」



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