千寿桜―宗久シリーズ2―
真実 6
梅雨明け。




夏の空は高い。



あまりに高すぎて、祈りたくなるくらいだ。







白い雲が山の様に連なり、その更に上から見下ろす太陽の悠々さが暑い日差しとなり、湿った大地から瞬く間に水分を大気に戻していく。




潮の香りが、風に乗り鼻をくすぐりかすめていく。











久しぶりの野駆けに出た俺と源三郎は、一つ山を越えた小川にて、冷たい水に足を浸していた。





山から湧き出る清水が、水晶の様な光を孕みつつ、穏やかな流れを作っている。


水音はまるで、琴の音の様。



日陰を作る木々の中では、鳥の鳴く声が響いている。








気持ちがいい。



鬱蒼とした心を癒す空気。









源三郎は、鳥のさえずりに対抗しているのか、足を浸しながら鼻歌を歌っている。




何の歌なのだか……上手いのか下手なのだかすら、さっぱりわからん。






「上機嫌だな」

「はい?何でしょう」




何とは………その笑顔は何なのだ。





「…その鼻歌」

「ああ、聞いている内に覚えてしまいました」





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