千寿桜―宗久シリーズ2―
下がり落ちる袴を膝までまくり直しながら、源三郎は更に笑う。





「女が歌うのですよ。昨夜もですね、鏡を見つめ髪を直しながら歌っておりまして。耳から離れず…」


「………」




まいりましたよと、首を掻く源三郎。


全く困る様子には見えない。



むしろ、嫌味な程の清々しささえ漂っている。







「町の蕎麦屋に奉公している女なのですが、頭が良いし気立ても良いのですよ」




聞いてはいない事まで語り出した……。










俺はこれまで幾度となく、漁色ともとれる源三郎の女癖について忠告をしてきた。




それについての源三郎の語り……。


「保明様。人生はですね、男としての喜びを噛み締める事に、真理や悟りがあるのではないかと…私は思うのでございます」







………屁理屈に武装されている。









どうやら今の世には、源三郎の行為を諭す力ある言葉は存在しないらしい。




痛い目を見るしか方法は無いのだ。





しかし、なぜなのか……。


源三郎に添う女達は、源三郎を恨む事が無いのだ。





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