千寿桜―宗久シリーズ2―
俺に八嶋を継がせる、そう望む者達が居るのも原因に違いない。



源三郎も、その内の一人なのだが。









「いいですねぇ、この穏やかな陽気。身も心も癒されますなぁ」




幸福そうに呟き、伸びをする源三郎。






……昨夜、女に癒されたのではなかったか?








いや、詮索は止めよう。


きりが無い上に、言っても無駄だ。









「ああ……蕎麦屋で思い出しました」



伸びを済ませた身体を戻しながら、源三郎が俺に視線を向けた。


眉間に皺寄せ、瞳を細めている。








「昨夜、気になる話を聞いたのです」







息を飲んだ。





源三郎がこの様な表情を見せる時は、良い話では無い時だ。







「先日、見掛けぬ物売りが二人、町を歩いていたと」




………物売り。







「何だ、それは」


「先程お話した蕎麦屋の女が見掛けたそうです。物売りにしては鋭い目つき、近寄り難い雰囲気で町を見て歩いていたと。隠す様に脇差しを挿していた様子が目に付いた、そう申しておりました」







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