千寿桜―宗久シリーズ2―
父上を守る事は、八嶋を、この地を守る事に繋がる。


この地を戦場にはしたくは無い。








見掛けぬ物売り……不穏……。








それが真実ならば、形になる前に手を打なければ。






俺に出来る事を、この地に悲劇を招かぬ方法があるのならば。












その時の俺には、未だ知るよしも無い。








町で見掛けたと言う物売り。













この地に入り込む意味、その目的が形として現れる事により、俺と千寿の運命が変化していくだろう事を…………。

















屋敷へと戻り、トキを馬場に入れた。



水を与える為、源三郎と二人桶を手に、井戸へと向かう。








途中、桜の前で足を止めた。







馬場に日陰を作るその桜、大地を噛む根元に視線を落とす。







散らばる小石の姿は、未だ千寿が積み上げ、崩しているだろう事を示していた。










あれから幾度、この桜の下に佇む千寿を見掛けた。




青々と茂る葉に包まれた枝、その隙間から見える空を、千寿は見上げていた。







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