千寿桜―宗久シリーズ2―
歩き出した視線の先、源三郎の背の向こう、こちらへと歩いて来る人影が映る。





思わず、再び足を止めた。



いつも遠くからしか見る事の無い長身、大股の歩調。

その隣、張り付く様について歩く小太りの身体。









………兄上と定盛。









静止する俺の視線の先を辿った源三郎は、軽く眉をひそめた。


無条件の反射なのだろう。
形良い唇を一文字に結び、俺の前へと庇う様に立ち塞がる。







徐々に近付く距離………ふいと顔を上げた兄上の瞳が俺を捕らえた。





途端、険悪な色がその視線に浮かぶのが手に取る様にわかった。









「………保明か」









俺は、無言のまま頭を下げた。





屋敷内にて、まるで俺の存在を景色の一部であるかの様に扱い、通りすぎる事はあっても、名を呼ばれるのは何月振りだろうか……。









「また遊び呆けておるのか。良い身分だな、お前は」


「…………」




ため息混じりに吐き捨てられる兄上の言葉。



その声に、肉親の情の影すらも無い。






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