千寿桜―宗久シリーズ2―
工藤は、裏山に咲いていると言っていた。




飛んできたのだろうか。









花びらを握りしめ、僕は辺りを見渡す。



工藤の実家である立派な屋敷のその高い屋根の向こう、緩やかな曲線を空に描く、低い山が見えた。









あぁ……多分、あそこだ。






感覚でわかる。



手の中、感じる花びらと同じ気配が、山の中腹から流れてきていたからだ。







―私は、ここに居ます…―






まるで、そんな風に呼ばれている様な。










「宗久」






呼ばれ、振り向いた。




屋敷の玄関前、工藤が手招きをしている。






ゆったりと立ち上がる僕に、工藤の隣に立つ中年の女性が頭を下げてきた。



つられ、頭を下げる。





工藤の母親だろう。


小柄でふくよかな身体に、慣れた雰囲気で紫色の着物を着こなしている。







「初めまして、新庄と申します」

「よくいらして下さいました。何も無い所ですが、ゆっくりしていって下さい」



人好きのする、おおらかな笑顔にほっとした。






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