千寿桜―宗久シリーズ2―
うつむき、軽く下唇を噛み締めた。




「父上が難儀な時であるのは承知であろう?…まぁ、何も考えておらぬのだろうな。お前に何かを期待してはおらぬ、だが自重くらいしてはどうなのだ」









…………考えていない訳は無い。









案じている。




いつも、いつも……この地を守る事を、方法を……俺なりに考えているのだ。








だが、兄上は許しては下さらぬではないか。


俺が口を出す事を、憎いと考えておられるではないか。






なぜ、考えていないと断言できる。


俺は、何も言わぬだけだ。






何も……………。











「いいえ、信成様。保明様をお誘いしたのは私めでございます」







空気の流れを読んだ源三郎が、言葉を挟んできた。







「馬術の鍛練でございます。保明様の、戦でお役に立ちたいとのお心構えに打たれましたもので」







……源三郎は、何も言わずとも理解している。



兄上の辛辣な言葉に、少なからず俺が苦痛を受けている事をだ。






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