千寿桜―宗久シリーズ2―
兄上は、俺を苦しめたいのだろう。






だからこそ源三郎は、言葉の槍から俺を守ろうと、こうして前に立ち塞がる。










「保明様は、殿と信成様のお役に立ちたい一心から、日々武術の鍛練を怠らずにこなしておるのです。どうか信成様には、お心を汲んで頂きたく存じ上げます」

「保明が俺の役に立ちたいと?よく回る舌だな?源三郎」


「哀しい事をおっしゃいますな。誓って真実でございます」









今にも唾を吐き出しそうな兄上の表情。








源三郎の言う事は、虚偽では無い。




父上や兄上の役に立てればと……そう思う。









ただ、兄上は認めたく無いだけだ。




いっそ、俺も兄上が憎いと嘘を吐く方が、兄上にとっては楽なのではなかろうか。




そう思えてしまう程、兄上の俺を見る目は、氷の様に冷え切っている……。









「まぁまぁ、信成様。弟君のお心構え、ご立派ではございませぬか」









その声に、俺は顔を上げた。







男のくせに、妙に高くて上擦った声。








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